はじめに

電子やイオンなど電荷をもった荷電粒子は,電場・磁場と強く作用して複雑なふるまいをします.荷電粒子が多数集まった集団は,粒子同士が相互に作用し合い.且つそれら自身が電場や磁場を作り出すので,その挙動はさらに複雑になります.荷電粒子の電磁場中のふるまいを理解し,人類に"役に立つもの"を創造する学問が,電子工学です.
どのような媒質中の荷電粒子を取り扱うかで.便宜上,真空電子工学(Vacuum Electronics),気体(プラズマ)電子工学(Gaseous Electronics),固体電子工学(Solid State Electronics)に分けられています.


真空電子工学は,今世紀初頭(1906年)De Forest が真空中の電子の流れを制御することに初めて成功(3極真空管,Triode の発明)したときからスタート,今日の電子工学,電子産業の盛隆の先駈けとなった分野です.気体電子工学は,真空管で実現できない領域の電子管(例えば,Thyratron(Hull,1929),HullはMagenetronの発明者でもある)を世に送り出してきました.その理論的な成果は後の固体電子工学の誕生に大きな貢献をしました.1948,49年には,BardeenとBrattain, Shockley らが,固体の中の電子の流れを制御する画期的な固体素子,トランシスタを発明しました.それ以後,固体電子工学は急速に発展し,固体素子が真空・気体電子工学の対象であった電子管にとって変わるようになりました.私たちの身の回りにも,IC,LSIといった固体素子から成る電子装置が満ち溢れております.

それでは,真空,気体電子工学は,古くなってしまったのでしょうか? 否です.

確かに私たちの身近にはTVのブラウン管,電子レンジのマグネトロンや蛍光管くらいになってしまいました.しかし,真空,気体(プラズマ)電子工学は,先端科学を支える加速器,高出力極超短波真空管,自由電子レーザーや放射光装置,長期エネルギー源をめざす制御熱核融合,磁気圏を含む地球環境問題,新機能材料の創製,先端エレクトロンデバイスの製造等々の分野においてなくてはらぬ重要な役割を果たしております.面白いことに,小型電子管を駆逐したはずの固体素子は,いまや真空,気体(プラズマ)電子工学の成果を利用しないと,更なる発展が不可能になっております.技術や装置は,すぐ古くなってしまいます.けれども,技術を支える学問はそんなに簡単に陳腐化しませんし,互いの分野が深くかかわり合って進歩しているのです.

私たちの研究室では,真空,気体(プラズマ)電子工学分野を担当し,真空あるいは電離気体(プラズマ)中における荷電粒子挙動の基礎的理解を重視し,その工学的応用を研究しております.

(プラズマ,Plasma:固体,液体、気体に次ぐ物質の第4態,Langmuirによって命名された.多数の電子とイオンが烈しく熱運動している全体とし電気的に中性の電離気体で中性気体とは質的に異なる性質を示す.地球上では稀な存在だが,宇宙の物質の99%はプラズマ状態にある.)

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